| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-373 (Poster presentation)
近年、人為的に放流された黄色体色メダカ(以下、ヒメダカ)との自然交雑による、野生メダカ集団 (以下、メダカ)の遺伝的撹乱が各地で生じている。しかし、交雑個体とメダカの目視での識別が困難なため、多くの地域で交雑の拡大が見過ごされてきた。広島県においても近年までヒメダカの放流が各地で行われていたので、遺伝子汚染が広域的に生じている可能性が高いものの、その状況は定量的に把握されていない。
そこで本研究では、広島県内の水系におけるメダカ―ヒメダカの交雑状況を把握するため、県内全域17地点から捕獲したメダカ計82個体・ヒメダカ計5個体が、ヒメダカ特有の潜性対立遺伝子 (b対立遺伝子)をもつかを確かめた。
その結果、17地点のうち交雑個体・ヒメダカが確認されたのは12地点にもおよび、広域的にヒメダカの移入および遺伝子汚染が生じていることが明らかになった。この12地点のうち6地点では目視によってもヒメダカの存在が確認され、残り6地点では確認できなかった。また、外部形態的にメダカに同定された個体のみが捕獲された6地点においても交雑型遺伝子が検出されていることから、たとえヒメダカが目視で確認できなかったとしても、ヒメダカ遺伝子の移入があることが分かった。また、広島県南西部の個体群は交雑個体を含んだが、広島県中央部、南東部にはb対立遺伝子をもたない個体のみで構成された個体群が残っている可能性が示された。
今回の結果をもとに、b対立遺伝子をもたないメダカのみで構成されている個体群を、遺伝子汚染がおこらないように気を付けながら重点的に保全していく必要がある。ただし、それぞれの地点において標本数が5個体と少ないため、今後より多くのサンプルを用いて検査する必要がある。