| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-378 (Poster presentation)
生物の生息環境中の物質は生物の活動に伴い生物体内に存在し,蓄積の程度によっては汚染影響が生じる.よって生物体内の元素蓄積の程度は,生物の生息環境を反映すると考えられる.そのため食物連鎖の上位を占める動物種の各元素の体内濃度について定量分析することで,生態系に対する汚染物質のリスクを包括的に把握できる可能性があり,実際に野生動物を指標とした環境モニタリングの試みが行われている.しかし非汚染対象すなわち健常な状態の体内元素濃度は,どの程度であるのかという課題が指摘されている (Krimsky S 2001).また動物の元素蓄積には,生理機能に変化をもたらす雌雄・年齢によって大きな差が生じるため,汚染を判断するうえでの基準値が曖昧である.そこで本研究では,鉱山があることで動物にとって汚染物質による特異的な暴露を受けない地域に生息し,かつ群れで行動する野生ニホンザル Macaca fuscataを対象に体内の元素組成の把握を行った.
野生ニホンザルから腎臓および肝臓を摘出し,分析用に約1 g程度切り出した.切り出した試料は,濃硝酸を用いて溶解し測定試料とした.Ca,Mg,Zn,Fe,Cd,Cu,Al,Cr,Mn,Pbを高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法で分析し,雌雄・年齢による元素組成の違いについて検討した.
その結果,腎臓と肝臓ともに,非必須元素は年齢による違いが見られた.なかでもCdは加齢に伴った蓄積が見られた.腎臓ではAlとPbは4才あたりを境にばらつきが収束し,肝臓ではAlは加齢に伴い濃度が低下傾向にあり,Pbは0から1.5才で濃度が高かった.本研究から,野生ニホンザルの腎臓および肝臓を対象としたモニタリングにおいて,非必須元素は年齢による違いを考慮する必要がある事が分かった.今後,雌雄・年齢に応じた継続的な調査を行うことで,基準値の決定が可能であると考えられる.