| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-379 (Poster presentation)
強風化土壌に成立する湿潤熱帯林では、その生産性がしばしばリンPによって制限される。一方、人為撹乱を受けた二次林では、窒素Nの制限を受ける。これに対し樹木は、葉の栄養塩を落葉前に樹体内に引き戻し、新しい葉に転流させることで効率的に利用している。一般に、極相種の栄養塩利用は保守的(獲得する栄養塩量は少ないものの効率的に利用)な一方、パイオニア種は「ぜいたく」(多く獲得し非効率に利用)であると言われる。そのため二次林における栄養塩利用は非効率である可能性があるものの、既存研究は熱帯原生林に偏り、二次林での研究は少ない。また、攪乱の影響は二次林景観の中で空間的に不均一であるため、伐採強度の異なる森林間での比較は重要であるが、そうした研究はない。本研究は、ボルネオ熱帯の伐採強度の異なる森林間で、リターフォールを介した栄養塩利用特性の違いを調べた。
マレーシア、サバ州デラマコットの原生林、環境負荷が少ない低インパクト伐採、従来型の高強度伐採林に、0.2および2 haプロットがそれぞれ、2-3及び1つずつ設置されている。2015年6月から2016年9月まで定期的にリターを回収し、器官ごとに計量、栄養塩濃度を調べた。優占種13種の林冠木から生葉を採取し、栄養塩濃度を調べた。そして、NとPの再吸収効率(落葉前に樹体内に吸収される葉の養分割合)を算出した。
原生林、低インパクト、高強度伐採林の順にリターフォール量は低下する一方、リターおよび群落平均での生葉のNP濃度は増加した。これは、伐採強度が高くなるほど、光合成速度が速く栄養塩濃度の高い葉を持つパイオニア種の優占度が増加するためである。一方、NPの再吸収効率は、森林間で差がなかった。このことから、パイオニア種は栄養塩を多く獲得し葉中濃度も高いものの必ずしも「ぜいたく」に利用するわけではなく、利用効率としては極相種と近しいことが示唆された。