| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-380 (Poster presentation)
エゾシカ(Cervus nippon yesoensis 以下、シカ)の個体数増加と分布拡大により農林業被害が増加し、生態系サービスの劣化が懸念されている。北海道胆振東部地震により大規模な斜面崩壊が発生した厚真町では、生態系サービスの回復に向け様々な復旧工事が行われている。これまで、伐採や森林火災、台風などの人為撹乱、自然撹乱後のシカの生息地選択に関して様々な研究が行われてきたが、地震による斜面崩壊がシカの生息地選択に与える影響は明らかになっていない。そこで、本研究では斜面崩壊地域においてシカの利用状況と生息地選択を明らかにするため、崩壊地域(厚真町)と非崩壊地域(由仁町)においてシカの利用頻度を相対評価した後、各地域においてシカの生息地選択に影響を与える環境要因を調べた。
厚真町とその北部に隣接する由仁町において、各10箇所、計20箇所の針広混交林(厚真町においては崩壊斜面上ではなく残存林)を選定し、自動撮影カメラを設置した。シカの利用頻度を示す指標として、カメラの画像から算出された撮影頻度指数(RAI)を用いた。シカの生息地選択に与える局所的な環境要因として計5つのカテゴリーの下層植生量(広葉樹、針葉樹、ササ類、嗜好性植物、不嗜好性植物)を調査し、景観構造として崩壊面積率、農地からの距離、標高をArcGIS proで抽出した。以上のデータより、一般化線形モデルを用いて時間帯別のRAI、各地域のRAIを比較した後、各地域において生息地選択に与える影響を明らかにした。
本結果から、崩壊地域はシカにとって夏期における餌場かつ休息場として好適な環境であり、非崩壊地域と同程度の個体数が生息していることが明らかになった。崩壊地域における生息地管理のためには、さらに崩壊斜面上に施工されている緑化工や植林といった局所的な環境要因がシカの生息地選択に与える影響を検討する必要がある。