| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-381 (Poster presentation)
高等学校の理科において、生態学は生物基礎「生物の多様性と生態学」および生物「生態と環境」で扱われている。理科では観察や実験に基づく探求学習が推奨されているが、教科書や授業ではそうした内容が十分に取り入れられていない。各種生物の中でも、鳥類は主に昼行性で人の身近に生息し、夜行性な種が多い哺乳類より観察しやすく、昆虫や植物ほど種数が多くないなど、初歩的な生態学の学習に好適な生物と言える。本報告では、学校キャンパスに生息する野鳥を高等学校生物の教材として活用すべく、兵庫県内の3つの学校の鳥類相を調べた。
2022年9月~2022年12月の鳥類センサスの結果、兵庫県三田市の三田学園中学校・高等学校では1センサスあたり13.8種83.6個体(計45種)、西宮市の神戸女学院では15.7種124.9個体(計43種)、尼崎市の園田学園女子大学では9.5種96.8個体(計21種)の野鳥が認められた。総種数は三田学園が最も多く、1センサスあたりの種数、個体数は神戸女学院が有意に多かった(P<0.01)。
各校の周囲1km圏の植生タイプを環境省GISの1/25,000植生図から求め、鳥類相との関係をみた。三田学園では市街地が約半数を占めたが、農地が24%、二次林が13%、ため池などが4%を占め、ホオジロやアオバズク、コジュケイなどの里山環境を指標する留鳥が特徴的に見られた。神戸女学院では市街地が88%を占めたが、キャンパス自体は常緑広葉樹林に包まれており、市街地に浮かぶ緑の島のような環境が留鳥類や渡り鳥(とくに冬鳥)の種数や個体数を多くしていると考えられた。園田学園では市街地が97%を占め、緑地は河川沿いや公園などにわずかに見られる程度で、ドバトやスズメ、カラスなど都市環境を指標する野鳥が中心の鳥類相がみられた。
このように学校キャンパスの鳥類相は周囲の環境を反映しており、高等学校理科生物基礎・生物において、身の回りの環境や生物多様性を学ぶ際の好適な教材となり得ることが示唆された。