| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-382 (Poster presentation)
都市において緑地は生物多様性の維持に重要な役割を果たしていると考えられるが、大都市では広い面積の緑地を新たに作り出すことは難しい。従って、都市の生物多様性保全には既存の緑地を適切に管理し、保全する必要がある。都市に存在する緑地の中でも神社仏閣や屋敷跡等を前身とする歴史公園は文化的、歴史的背景を持つことから、都市部であっても比較的多く残存している。また長期間維持されてきた背景があることから、自然植生に近い環境を留めていると考えられ、都市の生物多様性保全において重要な機能を果たしている可能性がある。本研究では東京都文京区に位置する神社仏閣を対象に鳥類多様性を調査し、都市公園と比較することで、神社仏閣が持つ鳥類多様性の維持機能を検証した。また、同緑地で植生調査を行い、鳥類の多様性と緑地間での種組成の違いに影響を与える環境要因を特定した。
その結果、神社仏閣では都市公園に比べメジロ、シジュウカラ、エナガ等の森林環境を好む鳥類が多く出現し、さらに鳥類の種組成が緑地間で大きく異なっていた。また、森林環境を好む鳥類の個体数は、下層植生が複雑で常緑樹が多い緑地ほど多かった。都市部の神社仏閣は都市公園に比べ高い鳥類多様性維持機能を有しており、またその違いは植生構造の差によりもたらされていることが示唆された。このことから神社仏閣は都市公園よりも鳥類多様性維持の観点において適切に管理された状況にあると考えられる。近年は、神社仏閣のように人々の文化と結びつきが強く歴史性を持つ緑地であっても開発が進んでいることから、都市部において神社仏閣が生物多様性維持に果たす役割やそのメカニズムを明らかにし、それらを積極的に保全する必要があると考えられる。