| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-385 (Poster presentation)
土地劣化は国際的に注目される環境問題の一つである。アジアにおいては砂漠化の防止や土地修復のために播種や植林など様々な土地修復技術が研究・実施されてきた。しかし低い成功率や追加灌水の必要性等の課題が指摘される場合もある。近年、バイオクラストを活用した土地修復技術が注目されている。地表面に発生するバイオクラストは藻類等の微小な生物と砂粒子から成る膜状の構造であり、炭素固定や地表安定化等の多様な生態系機能と砂漠環境下での高い生存性が報告されている。一方、バイオクラストの安定的な形成には地表面の物理的安定性が求められる。本研究では微生物による鉱物形成作用がこの課題を解決しうると考えた。この作用はバイオミネラリゼーションとも呼ばれ、生成した結晶が砂粒子同士を結合して土壌を硬化させることから、土地回復への応用も研究されている。本研究では尿素分解菌の鉱物形成作用によって硬化した砂培地上で、シアノバクテリアによるバイオクラストの発達が促進されるか、また砂培地全体の生態系機能が向上するか、室内実験を通じて解明することを目的とした。
実験の結果、鉱物を形成させた場合は無処理の砂培地と比較し、全糖量の増加率へ負の影響を与えたが、バイオクラストの厚さには特に効果を及ぼさなかった。このことから尿素分解菌の鉱物形成作用によりクラスト構成生物の成長には負の影響が出るものの、クラストの物理構造には影響しないと推察された。また、生態系機能にも関わる不飽和浸透係数、炭酸カルシウム量、風食発生可能性の時間変化量も処理の違いによる差は見られなかった。むしろ実験期間中、風食発生可能性はバイオクラスト単独処理よりも鉱物形成作用と組み合わせた方が低下した。少なくとも短期的にはバイオクラストと鉱物形成作用による硬化は互いの生態系機能を損なうことなく共存が可能であり、これらの併用により地域の生態系機能が向上すると推察された。