| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-387 (Poster presentation)
放棄水田のビオトープ化は、水田生態系の保全のための有望な手法の一つである。ビオトープ内の生物多様性を高めるためには、植生の有無や、水環境の違いなど、同一圃場内に環境モザイクが存在することが重要である。現在、新潟県佐渡市の生物多様性に配慮した稲作の現場では耕作中の水田内淵に沿って深堀の土側溝 「江」が造成されている。江は本来水田に入れる水を温めるためのものであるが、同地域では中干期間中の水生昆虫の避難場として機能させている。水田ビオトープ内における江の造成により環境の多様性や安定性をもたらすことが期待される。本研究では江の効果を定量化するために深さの異なる江を併設した水田ビオトープを造成し、ビオトープの田面とおよび江の水質、植生、水生昆虫の間にどのような関係があるのか解析した。
新潟県佐渡市の放棄水田を利用し、約200㎡の江付きの水田ビオトープを4枚整備し、田面6地点、江18地点に1m四方の調査コドラートを設置した。江は、水深10㎝未満の浅いものと水深10㎝以上の深いものを作り、水質調査、植生調査、水生昆虫の掬い取り調査を行った。すべての調査は9月2日から12日にかけて行われた。
水生昆虫は、調査を通じて合計2449個体採集された。その結果、水生昆虫の個体数は深い江で有意に多かった。田面と浅い江では水生昆虫の個体数に顕著な差はみられなかった。深い江のDOは他の条件と比べ有意に高かった。相関分析を行ったところ、半翅目においてDO、EC、水深と有意な正の相関が検出された。また、双翅目幼虫はDO、pHとの間に有意な正の相関がみられた。一方、トンボ科とヤンマ科は同一条件下であっても植生構造の違いにより個体数が変化する傾向がみられた。このように、水深の異なる江を造成することは、水生昆虫の存在様式に影響を与えていることが示唆された。