| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-394  (Poster presentation)

人間の「恐怖」は野生動物の種間関係に影響を与えるか?【A】
Does human "fear" affect interspecific relationships in wildlife?【A】

*森川周(東京大学), 角田裕志(埼玉県環科セ), 平尾聡秀(東京大学)
*Shu MORIKAWA(Tokyo Univ.), Hiroshi TSUNODA(CESS), Toshihide HIRAO(Tokyo Univ.)

近年の野生動物の密度増加に伴い、人と野生動物の間の軋轢が大きな問題となっている。この問題の背景の1つとして、以前と比べて自然環境下での人間活動が低下し、野生動物の人間への恐れが変化した可能性が挙げられる。そのため、この問題の緩和に向けて、人間活動が野生動物に恐れを抱かせているのか、また野生動物にどのような影響を及ぼすのかを解明する必要がある。そこで本研究では、野生動物の行動や生息地選択、種間関係に着目し、人間活動が野生動物に与える影響について検証した。
本研究では2つのアプローチによって取り組んだ。まず1つ目として、人間の会話音声を放送し、疑似的に人間の存在を操作する野外実験によって、人間活動に対する野生動物の応答を調べた。東京大学秩父演習林において2022年の冬・夏・秋の3度実施し、ニホンジカとホンドテンを対象として音声放送による行動的応答を比較した。その結果、シカとテンの双方で人間の音声を回避する傾向が見られた。2つ目として、奥秩父山地において登山者数の異なる調査地を選定し、自動撮影カメラによる調査を2022年の春~冬にかけて行い、地域スケールで野生動物の人間活動への応答が見られるかを調べた。対象種はニホンジカ・ツキノワグマ・ホンドテン・ホンドタヌキ・ハクビシン・ホンドギツネ・ニホンアナグマの7種として、行動(シカのみ)・サイト占有率・種間関係(シカ・クマ・テンのみ)に登山者数が及ぼす影響について解析した。その結果、一部の種のサイト占有率への影響は見られたものの、行動および種間関係では人間による影響は検出されなかった。
本研究により、人間活動は野生動物に対して、種間関係において及ぼす影響は小さかったものの、一部の種の行動と生息地選択に影響を及ぼしており、野生動物は人間を脅威としてみなしている可能性が示唆された。


日本生態学会