| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-018 (Poster presentation)
脊椎動物の死体は,さまざまな生物が活発に相互作用する生物多様性の一時的なホットスポットになる.消費型競争だけでなく,捕食者や寄生者による死肉食性昆虫の二次利用も見られる.とくにハエ類の幼虫(以下,ウジ)は,飛翔能力を持たず大量に発生するため,捕食者や寄生者にとって高質かつ効率的な資源である.実際,我々のこれまでの観察においても,死肉を利用することのないスズメ目の鳥類がウジを頻繁に捕食することが確認された.そこで本研究では,自動撮影カメラによって得られた動画を入念に観察し,どのような鳥類種がどの程度ウジを捕食しているのかを明らかにした.調査は,北海道八雲町において2016年から2019年の夏季に実施した.有害駆除されたアライグマProcyon lotorの死体を観察対象とし,ウジを捕食した鳥類種,ついばみ行動の回数とそのタイミングを記録した(計69頭).これとは別に,死体から発生するウジを全頭捕獲し,その個体数の推定も試みた(計5頭).これらの結果,8属15種のスズメ目がウジを捕食していることが明らかとなった.とくに,アカハラTurdus chrysolausにおいては,同時に複数個体撮影されることが多く,それらの大半は幼鳥であった.ついばみ行動が最も頻繁に見られたのは,ウジが蛹化のために分散した後であった.死体一頭分から発生したウジは,約10-63万頭と推定され,死体重量との間に有意な正の相関があった.得られた回帰線に基づいて,ウジの全頭数と捕食された割合を推定したところ,捕食率は1%未満であった.鳥類によるウジの捕食は,ハエ類の個体群動態を左右することはないと考えられる.しかし,採食経験の浅い幼鳥による頻繁な利用が見られたことから,利用した鳥類の局所的な繁殖成功を向上させる可能性はある.