| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-020 (Poster presentation)
群集の多様性が群集動態を安定化させるのか、安定化させるならばどのような過程がその背後にあるのかを明らかにするために、多くの研究が行われてきた。群集全体の個体数の変動を小さくする機構として近年注目されてきたのは、個体群変動の種間平均化である。群集の総個体数の変動が決定される際、群集に含まれる種数が多いと個体群変動が種間で効果的に平均化され、変動が小さくなることが予測される。一方で、多様性の違いによって構成種個体群の変動の大きさが変化すると、群集の変動もその影響を受ける。自然条件下における群集の多様性-安定性関係において、構成種の「個体群変動の平均化」と「個体群変動の大きさそのものの変化」のどちらがより大きな役割を果たすのか、明らかではない。本研究では、31年間9地点で観測した草本食ショウジョウバエ9種の個体数データを用い、多様性-安定性関係の介在過程を評価した。多様度の上昇とともに種間の変動の平均化は促進されていた。季節的生活史(化性)の異なる機能グループの多様度に着目すると、個体群変動の大きい3化性グループの相対頻度が比較的高いサイトでは、多様度とともにグループ単位の個体数変動が大きくなり、群集動態を不安定化させていた。その結果,全体として平均化による変動減少の効果があるにもかかわらず、多様度と群集変動の大きさの間には負の関係(安定化)は見られなかった。調査した草本食ショウジョウバエ群集では、構成要素(種・機能グループ)の個体数変動の平均化効果と、構成要素の変動の大きさの変化を介した効果が相反した方向に働くために、多様性と安定性の明瞭な関係が生じにくくなっていることが示唆された。