| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-025 (Poster presentation)
共通の資源を利用する2種は共存できないとする競争排除則は、基礎生態学および応用生態学で明示的にあるいは暗黙的に理論的基盤とされてきた。一方で、近年の研究から、種間の排除機構として繁殖干渉、つまり種間における性的な相互作用が重要であることが示されている。そこで本研究では、競争排除の実証として最も有名な例の一つであるヒメゾウリムシによるゾウリムシの排除を対象として、その排除機構を再検証することを目指した。
ゾウリムシParamcium caudatumとヒメゾウリムシParamecium tetraureliaの2種をともに培養し、それらの細胞数動態を観察した。この際、2種の接合型(性)の組み合わせを変えた反復を設け、接合型の組み合わせによって動態が異なるかどうかに注目した。また、ゾウリムシについては、生殖的に隔離した複数の系統(シンジェン)を用いた。その結果、いずれの系統・接合型の組み合わせにおいても、ゾウリムシまたはヒメゾウリムシの排除は生じなかった。ただし、ある系統のゾウリムシでは、接合型Eの増殖はヒメゾウリムシの存在によってほとんど影響を受けなかった一方で、接合型Oの増殖はヒメゾウリムシの存在下で著しく抑制された。また、このようなゾウリムシの接合型に依存したヒメゾウリムシの影響は、別の系統では観察されなかった。
以上の結果から、競争排除の代表として考えられていたヒメゾウリムシによるゾウリムシの排除は、この種群において普遍的に生じる現象ではないと考えられた。また、この2種間に強い相互作用が存在する場合、その相互作用には接合型すなわち性が関与している可能性が強く示唆された。