| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-028 (Poster presentation)
森林生態系は陸域の主要な生態系の一つである。森林生態系における生物群集の成立条件や生物多様性の維持機構を解明することは、生態学の発展だけでなく、将来的な気候変動の影響予測など、環境問題に取り組むうえで極めて重要である。森林生態系の構成種のうち、着生植物はリターや降雨などを受け止め、樹上に土壌を形成することで、他の生物の生息地や避難場所として機能する生態系エンジニアである。これまで、着生植物の生態系エンジニアとしての機能は、主に熱帯や亜熱帯地域で精力的に研究が行われており、温帯や暖温帯では十分に研究されているとは言い難い。本研究では、伊豆諸島のなかでも着生植物の種数が豊富な島の一つである御蔵島において、着生植物が無脊椎動物群集の成立に果たす役割を検証した。御蔵島の生態系は、地中営巣性の海鳥であるオオミズナギドリが高密度に営巣し、標高に応じて気候,植生,オオミズナギドリの営巣状況が変化するといった特徴がある。そこで本研究では、巣穴密度や植生,標高に応じた、着生植物自体とそれらが樹上に固定する土壌から成る「着生物質」と「地表のリター」内に生息する無脊椎動物の個体数,種数,種組成の変化を調査した。
調査の結果、着生物質の量に比例して、無脊椎動物の個体数と種数は増加する傾向が確認された。また、下層植生の衰退が激しいオオミズナギドリの高密度区では、地表のリター内の無脊椎動物の個体数と種数は減少したが、着生物質内では顕著な個体数と種数の変化は確認されなかった。種組成に関しては、地表のリター内と着生物質内との間で、アリ科や植食性昆虫類,クモ目,ダニ目などの構成種が異なった。また、着生物質内のダニ目の種組成は、オオミズナギドリの営巣密度と下層植生の被度,標高によって変化した。以上の結果から、御蔵島の様な暖温帯の海洋島においても、着生植物は生態系エンジニアとして重要な機能を持つことが示唆された。