| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-032 (Poster presentation)
資源をめぐる闘争は動物界における普遍的な行動のひとつであり、様々な実証研究や理論研究が古くから行われている。なかでもオス間闘争については、その過程が動物の認知様式(例:評価基準や情報利用)を探求するために詳細に研究され、その結果が、性淘汰の強さや方向性を決定づけると考えられている。しかし、ほとんどの研究が2個体の闘争しか想定しておらず、3個体の闘争に関する実証研究は非常に少ない。
ヤドカリ類では、交尾前ガード中のオスが単独のオスと遭遇すると高頻度でオス間闘争が起こる。ヤドカリ類のオス間闘争の研究は数多く行われているが、2個体の闘争しか扱ってこなかった。そこで本研究では、ホンヤドカリとヨモギホンヤドカリにおける3個体のオス間闘争を観察した。
その結果、両種で2個体のオス間闘争では観察されなかった「横取り」と「盗み」が頻繁に観察された。横取りとは、ガードオスと1個体の単独オスが取っ組み合いの闘争を行っている最中に、もう1個体の単独オスが横からメスを奪い取る行動である。そして、盗みとは、ガードオスと1個体の単独オスが取っ組み合いしている最中に、ガードされていたメスが離れてしまい、もう1個体の単独オスがそのメスをガードする行動である。横取りや盗みを行ったオスは、これらを行わなかったオスよりも小型であった。
2個体の闘争だけを想定した場合、密度が高いほど、大型オスが交尾機会を独占すると予測される。しかし、本研究の結果は、この予測を否定するものだった。また、横取りや盗みが可能であれば、とくに小型の単独オスは、ガードオスに正面から闘争を挑む必要がなくなる。つまり、オスの意思決定に「闘争する/しない」以外の選択肢があることになる。「これまで想定していなかった1個体に着目した研究」は、動物の社会関係や認知能力に関する理解を深めるうえで重要な発想かもしれない。