| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-033 (Poster presentation)
「個体が身を寄せ合うことによる体温保持」を目的とした集団の形成は,体サイズの小さい哺乳類において報告されており,この様な集団は野外において外気温の低下に応答して形成される場合がある.その一方で,集団形成は他の目的によって生じることもあると考えられており,集団形成と気温の間に関係性が見られない動物も存在する.
小型の滑空性リス類であるタイリクモモンガPteromys volansは,集団形成と気温の間に関係性が見られていない動物の一種である.本種では複数個体が一時的に同じ巣穴に営巣する行動(集団営巣)が観察されるが,先行研究において,集団営巣の形成と営巣前日の気温との間に関係が見い出されなかった.しかし,集団の形成は,気温の変化を受けてから集団形成に至るまでに時間差が生じていたり,一度形成された集団がそのまま継続して数日間維持されている可能性がある.そのため,集団形成と気温の関係は,集団が形成される前日の気温だけではなく,形成前1週間程度の期間まで遡って調べる必要があると考えた.そこで本研究ではタイリクモモンガ個体群における営巣集団の割合が,過去7日間の気温に影響されるのかを調べた.
2019年~2021年の5月から10月にかけて,北海道帯広市の森林に巣箱を132個設置し,巣箱に営巣している個体を捕獲した.捕獲した個体については,集団営巣の有無を記録した後,標識して放獣した.そして,得られた営巣記録および気象データから,営巣前日~7日間の気温が下がると,営巣集団が増えるのかを調べた.その結果,気温が変化しても集団の増加は見られず,先行研究と同様の結果が得られた.気温と集団形成の間に関係性が見られなかった理由として,同じ個体同士の営巣が複数回観察されたことから,個体間に社会的な結びつきが存在したために,気温に応答した集団形成が起こらなかった可能性が示唆された.