| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-036 (Poster presentation)
動物は資源をめぐって争う.闘争にはコストがかかるため,勝てる見込みの薄い闘争は回避すべきである.勝てる見込みの評価には,自身や相手のサイズだけでなく,過去の闘争経験も重要な指標の1つとなる.例えば,過去に敗北した個体は,新たに遭遇した見知らぬ相手との闘争に消極的になったり (敗者効果),見知らぬ相手よりも,自らが敗北し,劣位が明らかな相手に強い闘争回避傾向を示すことがある (個体識別).
本研究では,ユビナガホンヤドカリ Pagurus minutus を対象に,繁殖期のメス をめぐるオス間闘争において,(1) 敗者効果があるか,(2) 以前に敗北した相手を避ける個体識別能力を示すか,を検証した.本種のオスは繁殖期に成熟したメスを交尾前ガードし,ガード中のオス (ガードオス) とメスを持たない単独のオス (挑戦者) との間で,しばしばオス間闘争が起こる.本研究では,1度目の対戦 (Trial 1) において小型の挑戦者が大型のオーナーからメスを奪えなかった状況を敗北として,2度目の対戦 (Trial 2) で任意のオーナーに遭遇した際の敗者の行動を記録した.
Trial 2においてTrial 1をパスしたオーナー (闘争経験のない未知の相手) と遭遇した敗者は,Trial 1よりも闘争頻度が低下し,オーナーとのサイズ差が小さい場合でも闘争を粘らなかった.これらの結果は敗者効果を示唆する.次に,敗者効果を前提に,Trial 2において,Trial 1で他の挑戦者を退けたオーナー (勝利経験のある見知らぬ相手),あるいは,Trial 1でその挑戦者を退けたオーナー (勝利経験のある同一の相手) と遭遇した敗者の行動を比較した.その結果、敗者はいずれの場合でも闘争頻度を下げたが,前者よりも,後者における下げ幅の方が大きかった.これは本種のオスが,敗者効果だけでなく,個体識別によっても闘争を回避することを示唆する.