| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-038 (Poster presentation)
動物におけるカモフラージュの一つであるマスカレードでは,被食者が木の枝や鳥の糞など獲物ではないものに似ることで捕食者からの攻撃を回避する.マスカレードの効率は,被食者のモデルに対する類似性に加え,モデルの相対頻度にも影響されうる.ノミハムシ(甲虫目:ハムシ科)の成虫の多くは,寄主植物の葉を食べ,葉の表面に穴のような食痕を形成する.食痕には,葉の表面のみが削られてできた明るい色の食痕と,貫通して暗く見える食痕があり,ノミハムシは自身の体色に似た食痕を形成することが知られている.この現象はマスカレードとして解釈されているが,ノミハムシと寄主植物の相互作用により体色や摂食パターンの進化が促進あるいは抑制され,その効率は種や表現型によって異なる可能性がある.
本研究では,明るい体色と暗い体色のノミハムシにおけるマスカレードの効率を明らかにするために,食痕への類似による生存率,および葉上の食痕頻度について評価した.ハエトリグモを捕食者として捕食実験をおこなった結果,暗い体色のホソルリトビハムシは,暗い色の食痕のある背景上にいるときに生存率が高かった.しかし,明るい体色のクロボシトビハムシでは,食痕の色の違いによって生存率は変わらず,食痕の色と体色が十分には類似していないと考えられた.一方,ノミハムシ34種を用いて野外における葉上の食痕頻度を比較した結果,明るい体色の種は暗い体色の種よりも多く食痕を形成する傾向があった.これらの結果から,ノミハムシでは体色および摂食パターンに応じた異なる戦略によってマスカレードの効率を高めている可能性が示唆された.