| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-045 (Poster presentation)
我々の体はほぼ左右対称にも関わらず、大多数の人はほとんどの作業を片手で行うことを明確に好む。同様に、眼や鼻といった感覚器にも片側の優位性が報告されている。異なる行動の利きの相関を見ることは、それらの制御機構を考える上で重要である。アフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食性シクリッド科魚類(Perissodus microlepis)は、餌魚の鱗を右から狙う「右利き」と左から狙う「左利き」が存在し、利きの動物モデルとして注目されている。鱗食魚は餌魚の真後ろから接近し、左右どちらかに回り込んでから急激な胴の屈曲運動をして餌魚の体側に噛みつく。鱗食魚は眼球が頭の側面にあるため、両眼視野は狭く、餌魚に襲いかかる直前は餌魚側の片眼でしか相手を捕捉できない。本研究では、捕食行動の左右性と眼の使用の関係性について調べた。
捕食時に単眼の視覚を使えないようにするために、メタノールを眼球注射して白内障を促す実験処理を行った。この片眼阻害処理において、襲撃回数は処理前後でほぼ変化はなく、片眼が正常であれば積極的に餌魚を襲撃した。口が大きく開く側の眼(右利き個体の左眼、左利き個体の右眼)を阻害した場合、処理前には9割以上だった開口側からの襲撃が、処理後は5割にまで低下し、捕食成功率も低下した。さらに運動解析から、利き側襲撃でみられる獲物に噛みつく胴の屈曲運動において、処理後では角速度と屈曲角度の変化量が大きく低下していた。開口側の視覚阻害により、襲撃の正確なタイミングがとれないと示唆される。一方で、開口側とは反対側の眼を阻害した場合は、処理前後で襲撃方向が変化した個体はおらず、処理後も開口側から9割以上襲い、捕食成功率も維持されていた。したがって、開口側の単眼視野が捕食行動にとって重要な利き眼であることが分かった。一方で、開口側の視覚が制限されても襲撃方向が逆転しないことから、本来の襲撃方向を学習している可能性、視覚系以外の高次処理を担う脳領域の関与が示唆された。