| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-050 (Poster presentation)
なわばりや群れ、順位といった社会関係をもつ動物では、他人と混同されることで仲間から理不尽な攻撃を受けたり、自身に与えられるはずの利益が他者に渡ったりするコストが存在する。そのため、より多くの他個体と社会関係をもつ動物ほど、他個体を見分けるための認知能力に加えて、他個体と明確に異なる個体固有のシグナル(個体性)が進化すると考えられている。実際、動物のなかでもとりわけ大きな社会を構築する我々ヒトは、顔に特異的な認知システムを持つだけでなく、顔貌と関係するDNA領域には他の身体部位のそれよりも高い変異があると報告されている。動物においても、群れや順位といった社会関係を構築する種を対象に他個体の識別能力は検証されており、幅広い分類群で同種他個体の識別に特異的な認知システム(顔の倒立効果など)の証拠が見つかっている。一方、それらの動物が他個体と明確に異なるシグナル(個体性)を持っているか、また、それが利益となっているかについては複女王制のアシナガバチなど一部の動物でのみ検証されている。そこで、本研究はカワスズメ科魚類のNeolamprologus pulcherに注目した。本種は稚魚がヘルパーとして両親のなわばり内に留まり、防衛や巣の維持を行う協同繁殖魚である。また、ヘルパー間に順位があり、顔の模様の違いに基づいて他個体を識別している。タンガニイカ湖クンブラ島にてN.pulcherのなわばりを水中観察し、本種の稚魚にいつ明瞭な個体固有の顔の模様が現れるか、また、それは他個体と順位関係を築き、ヘルパーとして防衛や巣の維持といった仕事をはじめる時期と重複するかを検証した。その結果、防衛や巣の維持の開始時期は体サイズ、なわばり内の他個体との攻撃-被攻撃は顔の模様の明瞭さでそれぞれ説明されることが明らかになった。これは、N. pulcehrにおいて顔の模様は順位関係の構築に必要であるが、ヘルパーへの移行とは直接関係しないことを示唆する。