| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-052 (Poster presentation)
社会性をもつアリ科は遺伝的に近縁な個体で構成された集団が巣内で密集して生活するため、コロニー内に病原体が侵入すると、感染が拡大するリスクが非常に高い。そのため、アリ科の成虫は個体同士の相互グルーミングや、抗菌性物質の分泌といった機能を発達させることで病原体に抵抗している。また、アリ科の幼虫や蛹などの未成熟個体は自由に動けず、ワーカーからグルーミングなどの衛生行動を受けることで病原体から保護されている。アリ科の多くの種では、未成熟個体が繭に包まれており、これも病原体への感染防御としての機能を果たしていると考えられる。
我々は、アリ科のごく一部の種で、幼虫が繭を紡いでその内側にフンをした後、ワーカーがそのフンのついた繭の後端を切り取り、除去する行動を発見した。本研究では、この行動の意義を明らかにするため、繭後端のフンが切り取られないように操作したところ、繭後端を切り取らなかった未成熟個体は繭後端のフン部分からカビが発生し、繭後端が切り取られた個体より死亡率が高くなった。そこで、ワーカーはフンから生じるカビに対して何らかの衛生行動をしていると考え、未成熟個体に対するワーカーのグルーミング頻度を調べた。その結果、繭後端を切り取らない種の後端に対するワーカーのグルーミング頻度が、後端を切り取らない種と比べて、継続的に高かった。加えて、繭後端を切り取らない種のフンのついた繭の後端を人為的に取り除いたところ、繭後端を切り取る種と同様にワーカーの後端に対するグルーミング頻度は日ごとに低下した。このことから、フンが繭後端とともに取り除かれることで、カビの発生する確率が下がり、ワーカーの未成熟個体にかけるグルーミングの労力が低下すると考えられる。