| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-057 (Poster presentation)
寄生者は宿主の行動、形態、生活史などの様々な形質に影響を与え、適応度を低下させる。寄生者が宿主の繁殖に及ぼす影響について、雌雄異体の宿主では繁殖能力を完全に奪う寄生去勢などが数多く検証されている。一方で、宿主が雌雄同体の場合、寄生者が宿主の繁殖能力や性配分(雌雄機能への資源配分比)に及ぼす影響を検証した例はほとんどない。また、寄生によるエネルギー制限がある場合、雌雄同体の宿主は安価なオスへの投資を増やし、その結果、性配分はオスに偏る可能性がある。そこで本研究では、寄生者が雌雄同体の宿主に及ぼす影響を、宿主の性配分に着目し検証した。
本研究の対象種は、同時的雌雄同体のイワフジツボと、その寄生者であるヤマトフジツボフクロムシである。採集は、宿主の繁殖期であり、寄生率の高い5月に和歌山県白浜町で実施した。採集した全ての宿主を解剖し、寄生者の数、宿主の体サイズの指標として蓋板重量、オス投資の指標のひとつとして交接器の長さと太さ、メス投資として抱卵の有無、卵数と卵サイズを記録した。その後、軟体部の組織切片を作成し、HE染色を施して検鏡した。切片上で精巣と貯精嚢が観察された範囲のなかから10枚を等間隔に選出し、その面積を測定した。そして、それらの面積からオス投資としての精巣と貯精嚢の体積を算出した。
その結果、宿主の体サイズが大きいと寄生者数(0 – 11個体)が多かったが、その影響を考慮しても、寄生者が多いほど、交接器の長さと太さや精巣と貯精嚢の体積(以上オス投資)が減少し、他方で卵サイズは変わらないものの、卵数(メス投資)も減少することが明らかになった。それらの帰結として、性配分(オス投資としての精巣と貯精嚢の体積とメス投資としての卵数の比)は寄生者数が多いほどメスに偏った。つまり、本研究では冒頭で挙げた予想に反した結果となった。この理由として、宿主内での寄生者の位置や栄養摂取の時期などが関係する可能性がある。