| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-062  (Poster presentation)

環境DNA分析を用いた舞鶴湾におけるマアジ地先産卵の時期および場所の推定
Estimating the spawning season and location of Japanese jack mackerel in Maizuru Bay using eDNA analysis

*辻冴月(京都大学), 村上弘章(東北大学), 益田玲爾(京都大学)
*Satsuki TSUJI(Kyoto Univ.), Hiroaki MURAKAMI(Tohoku Univ.), Reiji MASUDA(Kyoto Univ.)

 繁殖は、種や個体群の存続において最も重要なライフイベントのひとつである。そのため、特に希少種や水産重要種において、繁殖生態に関する知識は資源量の維持・管理に不可欠な情報となる。発表者らのこれまでの研究により、マアジの産卵前後で環境DNA濃度および核/ミトコンドリア比が上昇すること、また、日の入と日の出の間でこれらを比較することで深夜に行われる本種の産卵を検知できることが明らかになっている。そこで本研究では、日の入と日の出の間での環境DNA濃度および/または比の変化を経時的に観察し、舞鶴湾に生息する水産重要種マアジの産卵がいつ・どこで行われたか推定することを目的とした。
 調査は2021年1月~翌年1月、月1回の頻度で新月大潮時に行った。湾内3カ所(湾口、マリーナ横、水産実験所前の桟橋)で、日の入2時間前および翌日の日の出時に各1 Lの表層水を採水した。環境DNAを抽出し、マアジの核DNAのITS1領域を種特異的に定量した。その結果、3・7・10月において、日の入よりも日の出時に有意な環境DNA濃度の上昇が観察された。特に7月は3地点全てで濃度の上昇が見られたため、マアジのミトコンドリアDNAのCytb領域を種特異的に定量し、ITS1との比を調べたところ、マリーナ横で有意な比の上昇が示された。さらに、7月頃にマアジが産卵していることを確認するため、2022年6月29・30日にマリーナ横周辺において船でプランクトンネットを曳き、浮遊性魚卵の回収を試みた。回収した魚卵270粒からそれぞれDNAを抽出し、MiFishプライマーを用いたシーケンスによる魚種判定を行ったところ、うち2粒がマアジ卵と判定された。これら一連の結果は、環境DNA分析を用いて舞鶴湾におけるマアジの地先産卵の時期と場所の推定に成功したことを示唆するとともに、本手法の産卵調査における有用性を実証するものである。


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