| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-066 (Poster presentation)
北海道に生息するエゾヒグマは、日本最大の陸上野生動物であり、夏から秋にかけて、液果を大量に採食する。したがって、エゾヒグマは、北海道の液果植物の更新に重要な役割を果たしていることが期待される。しかしながら、その種子散布機能についての知見はほとんどない。本研究では、エゾヒグマの種子散布機能を解明することを目的として、飼育個体を用いた採餌試験と、野生個体のGPS追跡データを用いた種子散布距離の推定を行った。
採餌試験は、札幌市円山動物園の飼育個体2頭を対象に行った。飼育個体に、ウワミズザクラ(200果実)、ヤマブドウ(200果実)、サルナシの果実(38-56果実)を与え、消化管通過時間と排泄種子の状態を記録した。試験は各個体で2回ずつ実施した。排泄された糞から回収した種子は、プランターに播種し、発芽率を計測した。また、対照として、果肉のついたままの果実と、人工的に果肉を除去した種子についても発芽率を測定した。種子散布距離の推定には、北海道森町で2009年に捕獲した3頭のGPS追跡データを用いた。1時間から24時間まで1時間刻みで各時間区分の移動距離を計算し、種子散布距離を種子の消化管通過時間あたりの移動距離として推定した。
果肉が除去された健全な排泄種子の平均消化管通過時間、発芽率、平均種子散布距離は、ウワミズザクラ 5時間19分、32%、279 m;ヤマブドウ 5時間30分、51%、301 m;サルナシ 4時間37分、19%、233 mであった。発芽率は、果肉が残っている場合と比較して高い植物(ウワミズザクラ、サルナシ)と低い植物(ヤマブドウ)があった。また、果肉が付いた状態で排泄されるサルナシ種子は、発芽率が低い一方で、消化管通過時間が長いため種子散布距離が長いことが明らかになった。
以上より、エゾヒグマは有効な種子散布者であるが、その効率は植物により異なることが示された。