| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-067 (Poster presentation)
食虫植物のトウカイコモウセンゴケDrosera tokaiensisは、花周辺への接触刺激に応答して3–10分ほどで花を閉鎖するというユニークな特徴を持つ。花閉鎖によって他家受粉が不可能になることを踏まえると、そのコストを上回る利益の存在が予想される。我々は、この花閉鎖運動はスペシャリストの植食者であるモウセンゴケトリバBuckleria paludumの幼虫から、繁殖器官を保護する機能を持つのではないかと考えた。
室内実験の結果、トウカイコモウセンゴケは、モウセンゴケトリバによる食害に応答して、概日時計に基づく通常の花閉鎖の9倍の速さで閉鎖した。さらに、閉鎖する花は、レジンで物理的に閉鎖を阻害した花と比較して、胚珠の食害率が統計学的に有意に低くなった。胚珠が食害された場合であっても、モウセンゴケトリバが花に到達してから胚珠の食害を開始するまでに要する時間は、閉鎖する花で有意に長くなった。以上のことから、トウカイコモウセンゴケの花閉鎖はモウセンゴケトリバによる食害を物理的に抑制し、胚珠を防御する上で効果的であることが示唆された。
繁殖成功度に直接的にネガティブな影響を及ぼす花食者への対抗は、植物にとって重要である。対花食者防御としては、これまで物理的防御、化学的防御、時間的防御の存在が知られてきた。本研究の結果は、対花食者防御の新たな形態として「素早い運動」を示すものである。