| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-072 (Poster presentation)
ニホンザル (Macaca fuscata) は我が国の森林生態系における主要な種子散布者である。その分布域は異なる植生帯を含み、また生息地には人間活動の影響の程度が異なる場所が存在するにも関わらず、種子散布特性の地域変異に関する知見は得られていなかった。われわれは、自らの野外調査ならびに文献調査により14地域のサルの種子散布特性を収集して、1)糞からの種子の出現率、2)糞一つ当たりの種子数、3)糞一つ当たりの種の豊富さ、4) 種子サイズを調査地間で比較した。とくに、植生タイプ(落葉広葉樹林/常緑広葉樹林)と餌付けの程度(純野生/加害群/餌付け)の影響も評価した。14調査地のサルは、53科・167種の植物の種子を散布していた。暖温帯のみ、冷温帯のサルだけが散布する属があったいっぽう、全国のサルが共通して散布する属があった。糞一つあたりの種子数は、春と冬は常緑広葉樹林で多かった。常緑広葉樹林は雪が降らず、また結実期が長いので、果実はより長時間可能で、また果実生産量が高いためと考えられた。秋の糞一つ当たりの種子数ならびに種子多様度は、落葉広葉樹林で多かった。落葉広葉樹林に生息するサルは、果実の結実期間が短い分(あるいは採食パッチが小さい分)、いくつものパッチを回って果実を集中的に採食するためと考えられた。いっぽう人間活動の影響については、年を通じて 糞一つ当たりの種子数は 野生群> 加害群> 餌付け群であり、また秋は糞一つ当たりの種子多様度が 野生群と加害群 > 餌付け群だった。農作物、給餌食物への過度の依存は、サルの種子散布者としての機能をゆがめると考えられるため、適切な個体群の管理が望ましい。最後に、散布する種子のサイズは、どの調査地でもほぼ同じだった。サルが飲み込める種子は、サルの口の大きさで制限されており、生息地の植生や人間活動の影響とは無関係と考えられた。