| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-076  (Poster presentation)

コナラ・アラカシにおける種子生産と個体内窒素動態の関係
Effects of intra-individual nitrogen dynamics on acorn production patterns in Quercus serrata and Q. glauca

*平山貴美子(京都府立大学), 溝健太(京都府立大学), 池本拓真(京都府立大学), 神津州佑(京都府立大学), 兵藤不二夫(岡山大学), 宮崎祐子(岡山大学)
*Kimiko HIRAYAMA(Kyoto Prefectural Univ.), Kenta MIZO(Kyoto Prefectural Univ.), Takuma IKEMOTO(Kyoto Prefectural Univ.), Shuusuke KOUZU(Kyoto Prefectural Univ.), Fujio HYODO(Okayama Univ.), Yuko MIYAZAKI(Okayama Univ.)

 ブナ科樹木の多くは、種子生産量が空間的に同調しながら大きく年変動する豊凶現象がみられる。こうした豊凶現象が進化してきた要因として、花や種子を一度に大量生産することで、種子を加害する捕食者の影響を低減しているとする仮説や、受粉効率が高まるといった仮説が提示されてきている。一方、その至近要因としては、気象要因や樹体内の資源の動態が関わっていることが示されてきている。しかし多くの研究は、花あるいは種子といった一部の段階と各要因との相関を示しているにとどまっている。本研究では、同一地域内のブナ科樹木であるコナラ・アラカシの複数個体について、ブナの開花量の年変動との関係性が示されている当年枝窒素濃度の季節・年変動を4年間、調べると共に、各個体の開花量、開花から結実に至るまでの脱落要因と脱落量、成熟健全堅果生産量の年変動を調べ、種子生産と個体内窒素動態の関係および種子生産の年変動がどのようなメカニズムによって生じるのか明らかにすることを目的とした。
 コナラの雌花数は弱い年変動であったが、成熟健全堅果数は大きな年変動となっており、個体間で強く同調していた。雌花数の年変動と当年枝窒素濃度との関係性は認められず、開花から成熟に至るまでの過程で、種子食昆虫であるハイイロチョッキリの吸汁と産卵による脱落量が多く、その年変動が成熟健全堅果数の年変動に関与していた。一方、アラカシの雌花数はコナラより大きな年変動となっており、個体間での同調性は見られなかった。成熟健全堅果数の年変動も雌花数の年変動と同様の傾向を示した。アラカシでは、種子食昆虫による加害の影響は小さく、雌花数の年変動は花芽形成直前である前年の7月の当年枝窒素濃度の年変動と相関性が見られた。コナラの種子生産には種子食昆虫の加害といった外的要因が、アラカシの種子生産には個体内窒素動態といった内的要因が大きく関与している可能性が示唆された。


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