| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-080 (Poster presentation)
将来的な気候変動を見越した生態系管理や生物多様性の保全において、種分布モデルは大きな役割を担ってきた。しかし既存の研究では種別・気候シナリオ別の予測をベースとしたため、特定の種・シナリオを選択して注視する必要があった。そこで本研究では、複数種を含んだ群集スケールにおいて、複数の将来気候シナリオを使って統一的な群集の脆弱性マップを描画し評価することを目標に、以下の解析を行なった。
森林を主な生息地とする樹木種(高木・低木・木性つる)を解析対象の分類群として、498種における種分布モデルを構築した。種の在・不在データは自然環境保全基礎調査(植生調査)のデータを使用し、説明変数として、最寒月平均気温、夏季降水量、冬季降水量、土地利用、地質、地形、水面割合を用いた。Biomod2を使用して、5つのアルゴリズムによるアンサンブルモデルを使用して解析した。将来気候値については、2GCM(MIROC5、MRI-CGCM3)、2RCP(2.6、8.5)、2時期(2031-2050、2081-2100)におけるものを使用した。3次メッシュごとに、将来気候下で新たに分布するようになる種数と、分布が消失する種数を全種で集計し、将来気候シナリオにおける気候値の変化量に対して、どの程度種数が増減するか、その傾きを将来気候条件に対する森林樹木群集の脆弱性の指標として算出した。
解析の結果、3つの気候値の中で、2つの降水量の気候値は種数の増減に有意に影響する地域は限定的だったのに対し、気温の気候値はほぼ全国的に強く種数の増減に影響する重要な因子となっていた。また将来的な気温の変化に対し、低地や平野部では種数減少は少なく、山地では種数減少が多い傾向が、さらに北海道や九州南部では種数増加が少なく、西日本の山地や東日本の平野では種数増加が多い傾向が見られた。これらの結果は種の分布やその変化に対する地形や地理的位置の影響を示していると考えられた。