| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-082  (Poster presentation)

モミーイヌブナ林における60年間のモミの空間分布
Distributions of Abies firma over a sixty years in an old-growth Abies-Fagus forest

*比嘉基紀(高知大・理工), 瀨戸美文(高知大・院・黒潮), 石田祐子(神奈川県立博物館), 若松伸彦(日本自然保護協会), 吉田圭一郎(東京都立大学・地理)
*Motoki HIGA(Fac. Sci. Tech., Kochi Univ.), Mifumi SETO(Kuroshio Sci., Kochi Univ.), Yuko ISHIDA(Kanagawa Prefectural Museum), Nobuhiko WAKAMATSU(NACS-J), Keiichiro YOSHIDA(Dept. Geography, TMU)

 鈎取山モミ希少個体群保護林(宮城県仙台市)には,発達したモミ-イヌブナ林の動態を明らかにすることを目的として1961年に森林調査プロット(150 m×20m)が設置された.若松ほか(2017, 植生学会誌)は,森林動態について50年間(1961年,1981年,2011年)の調査データをもとに検討を行い,種構成に大きな変化はないものの,モミの個体数増加とイヌブナを含む主要林冠構成種(落葉広葉樹)の個体数減少を明らかにした.しかし,モミ-イヌブナ林がどのように維持更新されているのかについては不明な点が残された.モミについては,1961年の小径木(DBH10 cm未満)と1981年,2011年の新規加入木の分布から,局所的な個体数増加が考えられた.そこで,2021年にも現地調査を行い,同プロットにおけるモミの個体分布について詳細な検討を行った.
 L関数による解析の結果,1961年のモミの小径木の分布には有意な集中性が認められた.分布図では小径木は大径木(DBH30 cm以上)と排他的に分布するように見えたが,L関数では有意な空間関係は認められなかった.1981年では,モミの小径木と新規加入木には有意な集中性が認められ,新規加入木と大径木は有意に排他的であった.同様の傾向は2011年,2021年にも確認された.以上の結果から,過去60年間でモミの個体数は増加傾向にあるものの,定着はモミ大径木の密度が低い場所に偏っていたことが明らかとなった.モミの当年生実生は閉鎖林冠下でも観察されるが,稚樹への生長には攪乱によって林床の光環境が改善される必要があると考えられた.若松ほか(2017)は,モミ-イヌブナ林が維持されるためには落葉広葉樹の一斉更新が可能な大規模攪乱が必要と推測している.本研究の結果より,モミの個体数維持にも何らかの攪乱が必要である可能性が示唆される.


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