| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-088  (Poster presentation)

冷温帯落葉広葉樹林の30年間の動態【B】【E】
Stand dynamics over 30 years in a cool temperate deciduous forest【B】【E】

*山﨑理正(京大院・農), 安藤信(公財・阪本奨学会)
*Michimasa YAMASAKI(Kyoto Univ.), Makoto ANDO(Sakamoto Scholarship Found.)

シカの過採食によって森林下層植生が衰退し、各地で問題となっている。シカの採食対象が実生から若木にまで至ると、低木層の更新にも影響が及んでいる可能性がある。本研究では、胸高直径5cm以上の樹木を対象とした冷温帯落葉広葉樹林の毎木調査データを解析し、低木層の更新に地形による差と時間変化が見られるかを明らかにすることを目的とした。2000年頃よりシカの被害が顕在化した京都府北東部に位置する芦生研究林のマスカミ谷の尾根部、斜面部、谷部に設置したそれぞれ1haのプロットで、1991年より5年毎に30年間、胸高直径5cm以上の樹木のべ3229個体を対象に毎木調査を継続した。25m四方のサブプロット単位で各種の胸高断面積合計を集計し、非計量多次元尺度構成法(NMDS)で種構成の変化を視覚化した。また、調査時に胸高直径5cm以上に進級した個体数については50m四方の単位で集計し、同様にNMDSで種構成の変化を視覚化した。
サブプロット単位の種構成の30年間の変化をみると、スギが優占する尾根部では安定的に推移し、斜面部と谷部では大きく変化していることがNMDSの結果より示唆された。また、進級木の30年間の変化をみると、尾根部ではリョウブ、エゴノキ、マルバマンサク、コシアブラの減少が、斜面部ではリョウブ・ウワミズザクラ・コシアブラの減少が目立った。このうちリョウブ、エゴノキ、マルバマンサクは、同地域で行われた調査で若木の当年生シュートがシカに被食されている度合が高いことが報告されている。谷部では、若木の被食度合が低いテツカエデの進級木の増加が目立った。NMDSの結果は、尾根部でも斜面部でも谷部でも進級木の種構成が30年間で大きく変化したことを示していた。調査地では、全体的な種構成はあまり変化していない尾根部でもシカの嗜好性種の低木層への進級が阻害されていること、谷部ではシカの不嗜好性種の進級が促進されたことが示唆された。


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