| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-092 (Poster presentation)
日本列島には約1600属の陸上植物が分布しているが、日本固有種のみで構成される日本固有属はそのうち24属のみとされる。これら日本固有属は日本列島において独自に進化したあるいは遺存したと考えられる希少な種群であり、その成り立ちを明らかにすることは日本列島の生物多様性を理解、評価するために重要である。本研究では日本固有属の中でも特に特異な分布を示すシャクナンガンピ属 (ジンチョウゲ科) に着目した。シャクナンガンピ属は屋久島の高山帯にのみ分布するシャクナンガンピと宮崎県北部の鬼の目山系にのみ分布するツチビノキの落葉小低木2種から構成される。両山系とも花崗岩由来であるが、その距離は270 km以上離れており、2種はそれぞれの山系の非常に狭い範囲に断続的に分布している。こうした隔離分布がどのように形成されたかは明らかになっておらず、また2種ともに絶滅危惧種に指定されているものの、保全を行う上での基礎的な情報は得られていない。そこで本研究ではMIG-seq法により得られたゲノムワイドSNPsを用いて、シャクナンガンピ属の進化史の解明と保全遺伝学的解析を行った。遺伝的集団構造解析より、ツチビノキでは分布範囲内の明瞭な遺伝的分化構造は検出されなかったが、シャクナンガンピでは永田岳と黒味岳の集団間が遺伝的に分化していることが示された。また過去の集団動態推定より、2種間の分化は約300万年前の鮮新世末期であり、一方でシャクナンガンピ種内における永田岳と黒味岳の集団間の分化は最終氷期中に起こったことが示唆された。両種とも種内に極端に遺伝的多様性の低い集団は確認されかったが、集団間の現行の遺伝子流動は制限されていることが明らかになった。以上より鮮新世から更新世にかけての気候の寒冷化と乾燥化によって2種は2つの降水量の多い花崗岩地帯に隔離され分化が起きたと考えられ、また検出された3つのESUを考慮して保全していく必要性が示唆された。