| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-095 (Poster presentation)
これまでの研究で、東南アジアの熱帯雨林では、近縁種の共存にはマイクロハビタットニッチの違いが重要であることが示唆されている。私たちは、これまで、マイクロハビタットに沿って種が出現する確率を算出した“ニッチ曲線”の平均値を、種ごとのマイクロハビタットニッチとして用いてきた。しかし、この指標では、中間的なマイクロハビタットに生育する種と広いマイクロハビタットに生育する種のニッチの違いを評価できない。そこで本研究では、種間のマイクロハビタットニッチの違いをより適切に評価するために、種間のニッチ曲線の重なりを定量的に評価し、これまでの指標との比較を行った。また、系統距離とニッチの重複度の関係をテストし、ニッチ分割の系統構造を調べた。
ランビルヒルズ国立公園の52ha大面積調査区に生育する樹木を対象に、毎木調査データから個体数30以上の991種でニッチ曲線を算出し、種間のニッチ曲線の違いを平均値の差と分割度(1-重複度)で計算した。系統関係との比較は、公表されている調査区の樹木群集の群集系統樹を用いて、系統樹に含まれる686種を対象に行った。
ニッチ曲線の分割度と平均値の差の関係をマンテルテストで検定した結果、両者は有意に相関していた。一方で、特定のマイクロハビタットに集中しているような種では平均値の違いにくらべて分割度が大きく、このような種では、平均値による評価では他種とのニッチの分割を適切に評価できない可能性があった。また、系統距離とニッチの分割度の間には有意な相関は見られず、マイクロハビタットニッチは近縁種間でも異なっていた。一方で、生活形ニッチと動態ニッチには系統距離と有意な相関がみられ、近縁種同士が似たニッチを持っていた。これらのことから、マイクロハビタットは近縁種の共存に重要な役割を果たしていると考えられる。