| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-102 (Poster presentation)
サツキ(Rhododendron indicum)はツツジ科常緑低木で関東以西,中国,九州地方(四国は除く)に分布している.分布南限の屋久島では,多くのサツキが自生している.これまでサツキは河岸の岩上に分布する渓流植物と考えられてきたが,屋久島では渓流の他にも山頂に分布するという情報を地元の山岳ガイドから入手した.そこで,あらためてサツキの生息立地を把握することを目的として,屋久島全域においてサツキの分布調査を行った.2020年2月に屋久島の地元ガイドを集めてワークショップを開催し,サツキ情報提供を依頼した.現地でサツキを目撃したら,写真撮影と位置情報を確認してもらった.これらの情報を元に,現地でサツキの分布の再確認および環境調査を行った.サツキは宮浦川,安房川,永田川,小楊子川,大川,鈴川,椨川,小田汲川,中瀬川,荒川,鯛ノ川,一湊川,白谷川など河口周辺から標高1000mを超える渓流域まで広範囲に分布していた.一方,河川環境とは全く異なる山頂周辺にも多く分布していた.愛子岳,明星岳,春牧前岳,花折岳,モッチョム岳,破沙岳,七五岳,ひずくし山,一湊岳などの山頂にも分布していた.サツキの分布する光環境は,河川沿いでも山頂でも共通しており,空が大きく開けて他の高木が分布しない明るい場所に限られていた.また,岩の割れ目や大きな礫の間に根を張っていた.河川においては,頻繁な洪水によって,他の樹木や草本が定着できない.また,山頂は,頻度の高い台風や冬季の強風によって樹木が低木化している.このように,洪水と強風という異なる攪乱によって形成される環境が,サツキが河川と山頂という全く異なった立地で生息できる理由と考えられる.以上のように,サツキは他の植物が生存できないような攪乱頻度の高い厳しい環境に分布することで,他の植物との競争を回避する生活史戦略をとっているのかもしれない.