| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-104 (Poster presentation)
林床で優占するササは長い生涯に一度、一斉開花する。ササは開花後に枯死するため、個体群を維持するためには一斉開花後に必ず更新を成功させなければならない。しかし、開花頻度が極めて低いためにササの更新状況の報告は限られている。特にササ実生の更新パフォ―マンスを競合相手の木本のそれと比較した研究はほとんどなく、特異な繁殖様式を見せるササの更新戦略は十分にわかっていない。近年、120年に一度の周期で開花すると考えられているスズタケについて、日本各地で一斉開花が報告されている。そこで本研究ではスズタケと木本の更新パフォーマンスを比較評価するため、一斉開花地点でスズタケおよび木本種の実生の発生・生残・成長を記録した。
調査は老齢の冷温帯落葉広葉樹林である小川試験地(茨城県北茨城市)で行った。小川試験地では、スズタケが同所的に分布するミヤコザサ、アズマザサに対して優勢で分布を拡大し続けてきたが、2017年に一番大きな分布パッチで一斉開花が観察された(新山ら 2021 森林総合研究所研究報告 460: 339-351 https://doi.org/10.20756/ffpri.20.4_339)。一斉開花地点が全て収まるように0.72ha(120×60m)の調査プロットを設け、プロット内に10m間隔で設置した72個のコドラート(1m2)で出現したスズタケおよび木本の実生発生・生残・高さを記録した。調査期間は一斉開花が見られた2017年から2022年である。
期間内で実生の発生が確認された47植物種のうち、実生密度はスズタケが最も高かった (4.85本/m2)。スズタケ実生のほとんどは一斉開花の2年後に発生した。スズタケの生存率は非常に高く、ほとんどの木本種より高かった。スズタケの成長もほとんどの木本種に比べて大きかったため、スズタケは一斉開花後に更新できる可能性が高いと考えられた。今後はどのような形質がスズタケ実生の高い更新パフォーマンスに関連しているかを明らかにしていく必要がある。