| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-105 (Poster presentation)
気候変動に伴う生物種の分布変化の程度や方向性、そのメカニズムの理解は社会的にも重要なトピックの一つである。最近の研究では、地球規模の気温上昇に伴い、各種が最適な温度帯に向けて分布を変化させていることが示された。この変化は近距離で温度帯が急速に変化する山岳でより顕著で、高山域ではその環境変化の大きさと相まって、非常に多くの種が新たに移入してきているという。このように、種組成の変化には環境の変化に加え、分布拡大できる可能性(分散制限)も大切な要素となってくる。
北極域は、高山域と同様に、気候変動の影響が最も大きい場所の一つとして知られている。高山以上に厳しい気候や環境条件(低温、貧栄養、生育期間の短さ等)で知られる北極域では、気候変動に伴い高山と同様もしくはそれ以上の植生変化が起きていることが予想される。一方で、高山のように高温度に適応した種が近傍に存在しない北極域では、強い分散制限により高山ほどの植生変化が起きないということも考えられる。このように、気候変動の影響を強く受けるとされる極限環境であるが、近年の気候変動に伴う極域の種組成の変化の程度や方向性、そのメカニズムについての統一的な理解は未だ得られていない。
そこで本研究では、同様の環境でありつつ種の移入プロセスが異なる北極域と高山域を対象に種組成の時系列変化のパターンを比較した。これにより、極限環境における種の分布変化の傾向を把握するとともに、そのメカニズム(分散制限や環境変化)を理解することを目的とした。データベースや出版物から、北極域と高山域における植物種組成の時間的変化に関するデータ、形質データ、気候データを収集、分析した。この際、植生変化の傾向の指標として、種組成の時間変化(Species dissimilarity)に加え、種の損失(Species loss)及び移入(Species gain)の量を計算、機能形質についても同様に解析を行うことで植生変化のメカニズムを推定した。