| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-106 (Poster presentation)
植物は多くの花を咲かせるが、全てが結実して果実にまでいたることはない。この現象を説明する至近要因としては、花粉や資源の制限があげられる。種子生産の年変動が著しいマスティング植物では、花粉密度が高い大量開花年に受粉率が向上し、充実種子の割合が高まることから、花粉制限が働いているとされる。しかし、花粉が十分にあっても、すべての花が充実種子にまで発達するとは限らない。種子の発達には当年夏に同化された光合成産物が利用されることから、資源が制限になっている可能性もある。
本研究で対象としたスギとグイマツは、典型的なマスティング植物であるが、受粉した胚珠は雌性配偶体が詰まった充実種子、受粉しなかった胚珠はしいな種子を形成する性質を持っている。また、林業用樹木として利用される同種は、種子を生産する採種園が造成されている。スギでは、ジベレリン処理により着花がコントロールできるため、安定して種子が生産されている。一方、グイマツでは数年おきに訪れる豊作年に合わせて種子の採取を行っている。生産方法に違いはあるが、いずれの樹種も種子の品質には年次変動があり、花粉制限や資源制限が影響していると考えられる。
繁殖成功に及ぼす両要因の影響を検証するため、スギでは20年間、グイマツでは9年間の種子の充実率、発芽率、100粒重と、推定花粉飛散量、着果量、夏の気象条件(気温、降水量、日照時間)との関係を調べた。その結果、スギでは種子の発芽率、100粒重は、花粉量と夏の気象条件との間に関係性があり、花粉制限と資源制限が働いていることがわかった。一方、グイマツでは豊作年に採取しているため、種子の充実率に及ぼす花粉量の影響は小さかったが、夏の気象条件の影響は強かった。また、種子の100粒重は、着果量と負の関係があり、豊作年には小粒の種子を作っていることがわかった。