| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-114 (Poster presentation)
離島環境は本土と比較し,種子分散,花粉分散が極度に限定される。訪花昆虫もまた限定的でそのため交配様式の分化が起こっている植物の研究がなされてきた。特に伊豆諸島は本土に比較的近いにも関わらず本土と陸続きになったことのない海洋島であり固有分類群や固有種において自殖性の進化が引き起こされている植物での報告がされてきた。キキョウ科ツリガネニンジンでは日本列島に広く分布する広域分布種の1つで伊豆諸島では三宅島・御蔵島まで標本報告がある。本植物は本土では夜間の鱗翅目を訪花昆虫として利用しているのと異なり,三宅島では昼閒の膜翅目を利用するという訪花昆虫相シフトが起こっている。この訪花昆虫相シフトはその報酬とする蜜の分泌パターンや訪花昆虫を引きつける外部形態へ影響を与えていると考えられ,このような形質に本土と伊豆諸島の島嶼間で分化が起こっているのか検証を行った。調査は伊豆半島(細野,爪木崎),伊豆諸島(伊豆大島,三宅島)の4集団で2017年から2022年に行い,蜜分泌特性(蜜分泌パターン,蜜分泌量,花蜜濃度,花蜜組成),外部形態の比較を行った。その結果,本土2集団および伊豆大島集団では,花蜜は昼閒はほとんど分泌されず,夜間に著しく分泌されたのとは異なり三宅島集団では昼閒(午後)に分泌され深夜にはほとんど分泌されないという特異性が認められた。また三宅島と他の3集団間には蜜の濃度,蜜の糖組成には分化がみられなかったが,1日あたりの分泌量には違いが認められた。三宅島は形態的には花サイズにかかわらず花盤長が他の集団より有意に短いという違いが明らかになった。これらのことから訪花昆虫相の夜間訪花昆虫から昼間訪花昆虫へのシフトは蜜分泌特性やそれに関わる形態の分化と対応しているものと考えられる。