| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-116  (Poster presentation)

種内変種とされてきたアカイタヤとエゾイタヤを異なる種として検討する理由
Why two maples that have been considered intraspecific varieties should be reviewed as separate species with different drought tolerance

*森茂太(山形大学), 黒澤陽子(山形大学), 丸山温(日本大学), 山路恵子(筑波大学), 石田厚(京都大学)
*Shigeta MORI(Yamagata Univ.), Yoko KUROSAWA(Yamagata Univ.), Yutaka MARUYAMA(Nihon Univ.), Keiko YAMAJI(University of Tsukuba), Atsushi ISHIDA(Kyoto University)

背景
イタヤカエデ(以下イタヤ)は、7種内変(亜)種で構成されるとされるが、分類や命名法に論争があり、国際的な混乱が生じている。Liu et al.(2017)は、遺伝解析でエゾイタヤ(Acer mono var. glabrum, 以下エゾ)とアカイタヤ(var. mayrii, 以下アカ)は同一起源でありながら、同じ森林でも交配しないことを示した。しかし、両者が生殖隔離した別種であるかは未確認で、仮に別種であれば、理由は不明である。
アジア大陸から派生した日本列島の植物の生理的多様性は、分布拡大ルートの環境に特徴づけられる。そこで我々は、両者の耐乾燥性評価、分布、開花期調査を行い、近年の分子系統地理の成果を踏まえ、アカとエゾが別種である可能性を検討する。

研究方法
・分布域、耐乾燥性の評価:
エゾとアカの国内分布域を調査し、葉の耐乾燥性をPV曲線法により評価した。この結果を、年平均降水量、最大積雪量などの分布環境と関連づけながら、エゾとアカが分化した理由を検討した。 
・フェノロジー観察と生殖隔離:生殖隔離を確認するために、両者が共存する二次林(盛岡、札幌)で隣接生育するエゾとアカの開花、開葉のフェノロジーを毎日観察した。

結果 
エゾの耐乾性はアカより高い。これはエゾが相対的に少降水量の内陸、国内沿岸部、サハリン、千島列島等の塩ストレスの予想される環境に分布し、アカ(日本固有)が多雪湿潤な山地に分布する事と概ね一致した。また、両者が隣接・共存する森林では、アカの開花はエゾより早く、満開期がずれ生殖隔離していた。

結論
同一起源とされるエゾとアカは、隣接個体でも開花期がずれ生殖隔離し、開花・開葉形態(エゾは開花開葉が同時進行、アカは開花が開葉に先行)や耐乾燥性の異なる別種であろう。これは、アジア大陸から日本への南北逆向きの分布拡大ルートの乾湿環境差や南北の緯度差を反映した結果と推察される。


日本生態学会