| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-120 (Poster presentation)
シダ植物の分岐年代は,最も古い小葉類ではデボン紀,シダ類の最も新しい種では新生代であり,大きな年代の幅がある。葉肉の厚さなど,シダ植物の葉の解剖学的性質には分岐年代による大きな変化があり,光利用(吸光度)に強く関連している。また,葉肉の厚さのような葉の解剖学的性質の種間差は,光合成の種間差を規定する要因の1つである。一方,シダ植物の葉柄における木部の解剖学的性質にも種によって大きな変化があり,水利用と深く関連している。葉の光利用,水利用,光合成の3者の間には,葉および葉柄木部の解剖学的性質を介した,強い相互関係があるはずである。
さまざまな分岐年代をもつ7種のシダ植物(イヌカタヒバ,コヒロハハナヤスリ,クジャクシダ,イヌケホシダ,コウヤワラビ,ベニシダ,シノブ)を用いて,葉の解剖学的性質として「葉肉の厚さ」に着目し,葉柄木部の解剖学的形質を同時に解析して,葉のガス交換,葉の水力学的形質の相互関係について調べた。また,葉肉の厚さが吸光度に与える影響について,別の2種のシダ植物(デンジソウ,ヒトツバ)を用いて調査した。
7種のシダ植物の間には,測定を行なったすべての形質について,明瞭な種間差があった。分岐年代が新しく葉肉が厚い種は,大きな葉緑体表面積(Sc/S),高い吸光度,高い最大カルボキシル化能力を示した一方,仮道管サイズは小さく,水力学的コンダクタンスは低かった。葉の厚さあたりの形質をみると,光獲得・CO2拡散・水輸送能力が相互に関係しており,これらの能力が高い種は,乾燥耐性が低いと考えられた。一方,葉緑体の密度が葉肉の厚さの増加とともに減少していることが示唆された。このことは,厚い葉において葉内での光拡散・光吸収効率の向上に寄与していると考えられる。