| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-121 (Poster presentation)
温帯落葉樹は、生育期間中に光合成で同化した炭素を貯蔵器官に蓄積し、この貯蔵炭素を翌春に葉などの新生器官の初期成長のために利用する。これまでに発表者らは、落葉果樹のリンゴ(Malus domestica)幼木を対象に13Cラベリング実験を行い、同化13Cが翌春の葉、当年枝及び花に再転流すること、生育時期の中でも成長旺盛期に同化した13Cが再転流しやすいことを明らかにした (Imada and Tako, 2022)。また、昨年度の発表では、果樹園のリンゴ成木を対象とした13Cラベリング実験を行った結果、秋に同化し翌春に地上部新生器官に再転流する13C濃度が幼木と同程度であったことを報告した。樹木は年々貯蔵炭素を蓄積する一方で、貯蔵炭素の新生器官の初期成長への寄与は少なくなることが予測されるが、この寄与を年別に評価した研究は少ない。本発表では、リンゴ成木を対象に、秋に同化し翌々年の春に再転流した13C濃度を地上部各器官で測定した結果を報告する。
調査対象樹は2020年10月に13C標識した農研機構果樹茶業研究部門リンゴ研究領域圃場のリンゴ成木(18年生、品種:ふじ、台木:JM1)1樹である。2022年に生育ステージに合わせて地上部新生器官及び前年枝を採取し、器官ごとに分別、乾燥及び粉砕後に13C濃度を測定した。また、対照個体として、非標識の1樹についても同様に13C濃度を測定した。
標識翌々年の春における葉、当年枝及び花の13C濃度は、展葉期から開花期の生育初期に高く、この傾向は標識翌年の結果と一致した。一方で、展葉期から開花期の各器官13C濃度は、標識翌年の春と比較して5%程度にとどまった。以上の結果より、貯蔵炭素は翌々年の春においても地上部新生器官の初期発達に利用されるが、その寄与は経年的に減少することが示唆された。
本記載事項の一部は、青森県からの受託事業により得られた成果である。