| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-122 (Poster presentation)
樹木も草本も、陸上植物は呼吸で得られたエネルギーを利用し、地上部で炭素を、根系で水を獲得して成長する。数十年~数百年生きる樹木は芽生え~成木のサイズ幅が非常に大きいが、数年で枯れる草本はサイズ幅が小さい。これらの違いを考慮すると、地上部と根系の呼吸のサイズに応じた変化(スケーリング)は樹木と草本で異なると予想される。しかし、樹木・草本両者を対象に大小個体の根系・地上部呼吸を実測し、両者を比較した研究は殆ど無い。
そこで、本研究は芽生え~大木用の様々なサイズの密閉装置(Mori et al. PNAS, 2010, Kurosawa et al. Ann. Bot. 2022)を使用し、シベリア~熱帯の樹木96種約1300個体と草本96種約500個体の個体全体の根系・地上部呼吸の実測を行った。これら呼吸速度と生重量の関係を両対数軸上で直線回帰し、樹木と草本の根系・地上部呼吸スケーリングの相違点及び類似点を検討した。
個体・地上部・根系のいずれについても、樹木と草本の呼吸スケーリングは共通の(限界)範囲内に制御されており、陸上植物としての統一性が見られた。呼吸スケーリングの傾きは地上部>個体>根系の順に高く、全て草本>樹木であった。また、樹木と草本の呼吸差は地上部では大きく、根系では小さい傾向にあった。さらに、樹木は芽生え~成木で根呼吸/地上部呼吸比が大きく低下するのに対し、草本(一・二・多年生)はサイズに応じた根呼吸/地上部呼吸比の傾向が不明瞭であった。
従来、呼吸制御メカニズムは環境・系統間差に着目して議論されることが多い。しかし、本研究は天然林の樹冠ギャップ形成で生じる枯死寸前~再生過程の個体呼吸の上昇(ゆらぎ)が系統・環境間差を吸収することを示す。本結果は、陸上生態系の地上部と地下部のエネルギーフローが樹木と草本に大きく類型化されることを意味し、陸上生態系の物質循環・生産の制御メカニズムへの理解を深める新たな基盤となる。