| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-129  (Poster presentation)

シロイヌナズナのRNAメチル基転移酵素FIONA1による生活史形質の多面的な制御
Pleiotropic regulation of life-history traits by RNA methyltransferase FIONA1 in Arabidopsis thaliana

*御代川涼, 佐々木江理子(九州大学)
*Ryo MIYOKAWA, Eriko SASAKI(Kyushu Univ.)

 植物は日長や気温などの環境変化をシグナルとして季節の変化を感知し、発芽、開花などのタイミングを決め、生活環を最適化する。生活環境を変えることのできない植物にとって、この遺伝的な調節が環境適応進化において主要な役割を果たしていると考えられている。中でも、複数の遺伝子調節ネットワークを介してさまざまな形質発現を制御するジェネラリスト遺伝子は、複数の形質の制御をつなぐ中核となることで急速な環境変動下で重要な役割を果たすと考えられる。一例として、近年報告されたシロイズナズナのメチルトランスフェラーゼ遺伝子FIONA1(FIO1)は、RNAのメチル化修飾やスプライシングパターンの制御を通じて、開花時期や葉色など多数の環境適応形質を調節すしていると考えられているが、分子メカニズムや環境応答性について関して明らかになっていない点が多い。
 本研究では、ジェネラリスト遺伝子FIO1がもたらす多面的な表現型調節の分子制御機構の解明を目的とし、FIO1機能欠損体を用いて、ゲノムワイドな遺伝子発現およびmRNA修飾、選択的スプライシングの解析を行った。標準系統Col-0に加え、スウェーデン自生で春化要求性系統1062のFIO1機能欠損変異体を作成し、トランスクリプトーム解析を行った結果、いずれの系統も既知の遺伝子発現変動に加え、免疫応答や光合成など多くのパスウェイが影響を受けていることが新たに明らかになった。一方で、FIO1がもたらす分子制御機構の解析では、mRNAのメチル化修飾およびスプライシングのパターンが先行研究間で大きく異なっており、詳細な比較の結果、解析パイプラインの違いによるバイアスが大きいことが示唆された。本発表では、FIO1がもたらす多面的な形質制御ネットワークについて報告するとともに、転写後修飾および制御の解析における技術的な問題点について議論する。


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