| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-134  (Poster presentation)

針葉樹の葉の乾燥過程における細胞壁の力学的性質の変化
Shift of mechanical properties of cell walls during drying process in coniferous leaves

*齋藤隆実(森林総合研究所), 三好由華(森林総合研究所), 秋山拓也(東京大学), 宮澤真一(森林総合研究所)
*Takami SAITO(FFPRI), Yuka MIYOSHI(FFPRI), Takuya AKIYAMA(UTokyo), Shin-Ichi MIYAZAWA(FFPRI)

大気や土壌の乾燥によって葉が水分を失うと、細胞の膨圧は低下する。葉の水ポテンシャルが低下することで吸水力が増大する一方、膨圧が過度に失われると葉の生理活性は失われてしまう。背反する吸水力増大と膨圧維持との関係を規定しているのが体積弾性率である。体積弾性率は細胞の相対含水率低下に対する膨圧低下の比であり、細胞壁の弾性的性質との関係がこれまで広葉樹2種で示された。しかし、体積弾性率の成り立ちについての理解は十分でない。とりわけ、針葉樹は葉の構造や細胞壁の化学組成において広葉樹と大きく異なっている。そこで本研究では、針葉樹シュートの水分生理特性を広葉樹と比較することを通じて、細胞壁の弾性的性質の成り立ちを明らかにすることを目的とした。
材料としてヒノキ科針葉樹で落葉性メタセコイアと常緑性スギを用いた。また、過去に測定したブナ科コナラ属広葉樹で常緑性アラカシと落葉性コナラを比較対象とした。成木樹冠下部の日当たりのよい当年シュートあるいは葉を材料に用いた。P-V曲線を測定し、体積弾性率などの値を得た。さらに、メタセコイアの葉については引っ張り試験機を用いて動的粘弾性を測定した。この際、葉を水中で加熱冷却することで熱軟化特性を評価した。
その結果、針葉樹では広葉樹と比較して、しおれ点での水ポテンシャルが高く相対含水率が低い傾向が見られた。また、針葉樹で乾物/飽水時重量比が顕著に小さく細胞内/全水量比が大きかった。さらに、体積弾性率が顕著に小さかった。これらの結果から、針葉樹のシュートは乾燥にさらされたとき、広葉樹と比べて吸水力の増大には劣る一方、水分保持に優れることが考えられた。発表では、メタセコイア個葉の熱軟化特性から推察される細胞壁の弾性的性質についても議論する予定である。


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