| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-135 (Poster presentation)
森林下層では、光強度(PPFD)が時間的に大きく変動しCO2濃度が高くなる傾向がある。以前の研究で、高CO2濃度が光照射にともなう光合成誘導過程の生化学的制限と気孔制限の両方を減らすことで、変動光の利用効率を高め、炭素固定量の増加に貢献することが示唆された。したがって、低照度の林床植物は、光合成誘導が高 CO2 環境に順応している可能性がある。そこで本研究では、「光合成誘導過程での高CO2の貢献は、生育光強度が低い個体ほど大きい」という仮説を検証した。 実験材料のクワズイモ(Alocasia odra (Lodd.) Spach)は、亜熱帯林から温帯林にかけて分布し、森林下層の陰性植物として光合成研究に広く利用されている植物種である。植物は、2つのCO2濃度(400 および 700 μmol CO2 mol-1 air)の制御されたグロースチャンバーで約二ヶ月間栽培した。さらに各チャンバーは、2 つの光強度(120 および 750 μmol m-2 s-1 で 10 時間/日) 条件で栽培できるように内部を区画化した。光合成速度とクロロフィル蛍光は、光強度を20 から 800 μmol m–2 s–1 に急激に上昇させたときの変化過程を追跡し、その時のCO2濃度は栽培時と同じ条件とした。さらに、定常状態でのガス交換速度として、光-光合成関係(ライトカーブ)と葉内二酸化炭素濃度-光合成関係(Ci-A)を測定した。 その結果、光合成誘導応答は両方の栽培光強度ともにCO2 条件間で有意差を示さず、本研究の仮説が支持されなかった。一方、形態的および定常状態のガス交換特性は、栽培CO2 条件よりも成長光強度条件によって変化することが示された。これらの結果は、クワズイモの環境適応が CO2 条件よりも生長時の光強度に依存していることを示唆している。高 CO2 が動的光合成に及ぼす影響についての理解を深めるには、他の植物種を用いた検証などが必要である。