| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-137 (Poster presentation)
霜害は植物に大きな被害をもたらす要因の一つであり、地域の生態系や経済など様々な面に悪影響を及ぼすことが知られている。近年の地球温暖化に伴う気温上昇により、霜害リスクが変化しているという報告がなされており、地域ごとに霜害リスクを明らかにすることが求められている。そこで草原資源を利用した牧畜が盛んで、霜害発生による大きな被害が予想されるモンゴルを対象とし、温暖化に伴う霜害リスクの変化を調べた。霜害リスクを評価するにはその地域の植物の霜害耐性を明らかにする必要があるため、本研究ではまずモンゴル草原に生育する草本植物9種の霜害耐性を明らかにし、得られた霜害耐性を考慮してモンゴルの霜害リスクを評価した。霜害耐性は、植物の細胞の50%が凍結する温度であるLT50を用いて表し、LT50は電気伝導度を用いることによって測定した。霜害リスクは、霜害が最後に発生した日よりも前の日で、日平均気温が0℃を超える日の積算気温を求めることで表した。霜害が発生する日は、日最低気温がLT50の気温を下回る日と仮定し、使用する気象データはモンゴル各地に設置された70ヶ所の観測所から入手した。結果は、霜害耐性は種によって異なり、最もLT50の気温が高かった種はChenopodium aristatumで-5.9℃、最も低かった種はStipa kryloviiで-9.4℃であった。霜害耐性は温暖化条件によって変化したが、その変化は種によって異なった。モンゴルでの霜害リスクの変化は、-4℃以上で霜害が発生したと仮定した場合多くの地域で積算気温が増加する傾向を示したため霜害リスクが増大、それ未満の気温では積算気温はほとんど変化しないか減少する傾向を示しており、霜害リスクの変化は見受けられなかった。これらの結果から、本研究で測定した植物の最も高いLT50の気温は-5.9℃であり、霜害リスクが増大していた気温よりも低い気温であったため、モンゴルの霜害リスクが温暖化により変化する可能性は低いものと考えられる。