| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-149 (Poster presentation)
本研究では、滋賀県を対象に、絶滅危惧種の鳥類「コウノトリ」をシンボルとして豊かな生息地としてのポテンシャルを推定することを目指した。更にその先生息地としての保全が洪水抑制の機能も併せて働かせる共便益性に関しても議論する。
利用したデータは福井県が放鳥した野外個体のGPS追跡位置と、国土数値情報から提供されるオープンデータを加工した景観スケールの環境変数である。モデリングの手法としては在データのみで種分布推定を行うMaxEntを用いた。
結果、生息地ポテンシャルの高い空間の分布と既往研究と同様に水田が出現確率を上げるという結果を得た。予測に用いた個体とは別個体の軌跡と重なることも確認した。
水田は集水しやすい空間を利用する農地であり、洪水調整の機能も持つ。そこで生息地と浸水のポテンシャルが両方高い空間を浸水想定区域図とオーバレイして選択したところ最も緩い条件で71.6㎢、最も厳しい条件で1.7㎢が抽出された。この空間は希少生物が生息でき、一時的に洪水を貯められるため、「重点保全空間」になり得る。地形区分としては扇状地が終わる扇端部から後輩湿地・砂州にかけて分布することがわかった。
接続性という視点では、「重点保全空間」というパッチは本川よりも小河川や水路ネットワークが接続性を持つ空間である。現地調査からも湧水や本川から取水している流路が特に灌漑期の水田を代替湿地として維持させていることがわかった。「重点保全空間」は県内に分散配置されているが、琵琶湖という開放水域でつながっていることで水生生物が行き来できる生態システムが維持されることから、琵琶湖を基盤としたエコロジカルネットワークであるとも位置付けられる。
このような多機能性を持つ「需要保全空間」の保全はOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)の重要な候補空間となり得ると考える。