| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-157 (Poster presentation)
コケや地衣類はバイオマスが小さく、生態系においてこれらの生物が窒素の蓄積に果たす機能が注目されることは少ない。しかし、一部の生態系においては地上を広く覆っていることから、コケ・地衣類は窒素プールとしても重要な役割を果たしていると推察される。そこで、本研究では、主な植生(常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、亜高山帯針葉樹林、高山低木群落、湿原など)において、コケ・地衣類が蓄積する窒素量の評価を試みた(樹幹は除く)。まず、各植生でコケ・地衣類の単位面積あたりのバイオマスを算出し、この値にコケ・地衣類の窒素含有量を乗じることで、これらの生物が蓄積する窒素量を推定した。その結果、常緑広葉樹林や落葉広葉樹林においてはコケ・地衣類の窒素蓄積量は小さいが、亜高山帯針葉樹林や湿原の一部(高層湿原)では大きくなることが明らかになった。しかし、常緑広葉樹林などであっても、林床の岩の被覆率が高い場合はコケのバイオマスが増加し、その結果、窒素蓄積量も大きくなることが示された。また、コケと地衣類を比較すると、高山風衝草原を除いては、いずれもコケのバイオマスの方が大きく、その窒素蓄積量も多くなった。本研究成果は、日本の植生においてコケ・地衣類が担う窒素プール機能を評価するための基礎的知見となることが期待される。