| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-160 (Poster presentation)
伐採を伴わない天然性林においては、成長していく樹木も長期的にはいつかは枯死して分解系に供給される。NPP(純一次生産量)における樹木成長量の寄与は30~50%程度を占めるため樹病や風害などの攪乱が発生すると、長期に蓄えられた樹体成長分の炭素が一気に枯死木として発生するため、土壌呼吸や長期土壌炭素収支における枯死木の関与は大きい。また、枯死木は小型リターと比較して材内のリグニンなどの難分解性炭素含有率が高いため、その細片化は分解されなかった基質が残って土壌に供給される過程とも考えられ、小型リターとは異なるCO2放出特性を持っている可能性がある。このように複雑な要素を持った枯死木の分解過程を発生から土壌化まで包括的にとらえることは、長期的な森林炭素収支推定において重要な課題である。
本研究では全国5か所(宮城、埼玉、東京、京都、宮崎)のサイトにおいてコナラ枯死木(各約50サンプル)を2016年に設置し、枯死木周辺の土壌呼吸測定と並行して細片化枯死木サンプルと落葉起源リターのSIR(Substrate Induced Respiration)測定を行った。SIR測定は①サンプルを粉砕し②インキュベータでサンプルを25℃とし③含水比約2.5として、まず最適含水率のポテンシャルCO2放出量を測定し④つぎに濃度が約2.5%になるようにグルコースを加えて呼吸量を測定してポテンシャル微生物活性とした。細片化枯死木サンプルのポテンシャルCO2放出量は落葉サンプルの20~30%となり、難分解性の樹皮などの影響で低い微生物活性が観測された。一方枯死木周辺の細片化有機物堆積はこのポテンシャルフラックスの低さを補う5~10倍程度の有機物蓄積が見られた。枯死木細片化に伴う土壌炭素の増大は土壌蓄積の増加と土壌CO2放出の増大の双方の機能があることが明らかとなった。