| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-165  (Poster presentation)

遡上魚が排泄するアンモニウムと河川生物の窒素同位体比
Nitrogen isotope ratios of river community and excreted ammonium by migratory fish

*大西雄二(総合地球環境学研究所), 倉澤央(京都大学), 宇野裕美(北海道大学), 福島慶太郎(福島大学), 木庭啓介(京都大学)
*Yuji ONISHI(RIHN), Akira KURASAWA(CER), Hiromi UNO(Hokkaido Univ.), Keitaro FUKUSHIMA(Fukushima Univ.), Keisuke KOBA(CER)

窒素安定同位体比(δ15N)を用いた生物の栄養段階解析は、河川生態系にも適用されてきたが、河川ではベースラインとなるDINのδ15Nが時空間的に変動するため、正確な解析にはその動態を理解する必要がある。多くの河川では、海や湖から遡上する動物が排泄などによってアンモニウムイオン(NH4+)濃度を上昇させるが、そのδ15Nへの影響は観測されていない。本研究では、琵琶湖からの遡上魚排泄によるNH4+の動態の追跡と、河川生態系への影響を調査した。

調査は滋賀県高島市の知内川で行なわれた。琵琶湖流入河川では夏季に多回産卵型魚類のハス(Opsariichthys uncirostris)が大規模に遡上する。河口付近から上流までの約4 kmの範囲に魚類密度の異なる11の調査地点を設定した。各地点から河川水、底生藻類、藻類食昆虫を採取した。また、ハスの飼育実験により排泄NH4+を、河床堆積物からNH4+を回収した。得られた試料からNH4+・硝酸イオン(NO3−)・底生藻類・藻類食昆虫のδ15Nを測定した。

NO3−の濃度(23.7〜29.6μM)とδ15N(2.3〜3.7‰)はほとんど変化しなかったのに対して、NH4+の濃度(1.6〜4.3μM)とδ15N(-0.8〜15.1‰)は魚類密度の高い下流で高く、上流に向かって劇的に減少していた。また、その値の変化は、NH4+濃度の上昇が堆積物NH4+(-3.5‰)の溶出よりもハスの排泄NH4+(21.1‰)によるものであることを示していた。δ15Nについて、底生藻類(0.4〜6.9‰)はNH4+と、藻類食昆虫(2.4〜10.4‰)は底生藻類と強い相関を示した。以上から、ハスによる排泄NH4+が河川生態系全体のδ15Nを上昇させていることが明らかとなった。この結果はδ15Nを用いた食物網研究において、魚類密度の違いを考慮する必要があることを示している。


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