| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-168 (Poster presentation)
石灰岩には高濃度のカルシウム(Ca)が含まれるため、石灰岩に由来する土壌は高pHを特徴とし、それらに関係してリン(P)可給性が極めて高く、鉄(Fe)・マンガン(Mn)の可給性が低い。また、石灰岩上には石灰岩植生という特殊な植生が成立することが知られるが、土壌の性質が樹木の栄養塩吸収や利用に及ぼす影響についてほとんどわかっていない。本研究では、石灰岩植生と非石灰岩植生の識別種・共通種を対象として、栄養塩利用・吸収特性の差異を調べ、石灰岩上の土壌―植生系の特殊性を解明することを目的とした。
調査は石灰岩が広く分布する伊吹山周辺で行った。2022年9月に細根由来の酵素や有機酸の影響を受けた根圏土壌とその周辺のバルク土壌の採取、10~11月に老化葉の採取を行った。根圏土壌は石灰岩地質上のオオイタヤメイゲツとシナノキでそれぞれ3個体ずつから採取し、pHを測定した。老化葉は石灰岩識別種(マユミ・ゴマキ)、共通種(ミズナラ・オオイタヤメイゲツ)、非石灰岩識別種(リョウブ・クリ)をそれぞれ3個体ずつ、全9地点(石灰岩地質:5地点、非石灰岩地質:4地点)で採取し栄養塩濃度を分析した。
根圏土壌はバルク土壌に比べ、両対象種ともpHが低かった。これは根滲出物の影響と考えられ、滲出物によりMnやFeの可給性を高める適応の存在が示唆された。石灰岩上の樹木は非石灰岩上の樹木に比べ、老化葉のCa、P、Mg濃度が高く、土壌の可給性に応答して高い生理活性の葉を持つ可能性が示唆された。一般にMnは高pHほど可給性が低くなるが、共通種はpHの増加に対して一定のMn濃度を維持し、集積する種も見られた。一方、石灰岩識別種は共通種や非石灰岩識別よりも一貫して低い値を示した。
これらの結果から、石灰岩上では、樹木は老化葉中Pを増加させること、pHの増加に対するMn利用戦略が種ごとに異なることが明らかとなった。