| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-170 (Poster presentation)
人間の文化の多くは、様々な生物との関わり合いの中で形成されている。文化と関連の深い生物種を明らかにし、必要に応じて保全することは、人々のアイデンティティや価値観の保護につながる。日本では、動植物等をモチーフにした紋章で家系や一族の由緒を示す家紋文化が発達してきた。家紋は、苗字の代替として古くから社会階級を問わず用いられ、現代でも冠婚葬祭や墓所等で使われていることから、象られた生物種は文化的に重要で保全する意義が大きいと考えられる。本研究では、家紋の中でも特に種類の多い植物紋を対象に、象られている種の生態的・社会的特性を整理し、家紋文化に寄与してきたのはどのような植物かを考察した。また、各種の生育環境とレッドデータブック(RDB)掲載状況をもとに、保全の必要性についても検討した。
大正15年刊行の「日本紋章学」(沼田頼輔著)掲載の植物紋のリストから、具体的植物名(”葵”、”桐”、”酢漿草”など)を99個抽出した。このうち80個について、上記文献の解説文の記載内容をもとに種を特定し、Ylistから学名を抽出した。これらの種について、文献やデータベースから生活形、分布地域、生育環境、栽培履歴と用途、環境省および各都道府県のRDB掲載状況を調査した。
その結果、家紋には、落葉樹と多年生草本を中心に、常緑樹、一年生草本、シダ植物等様々な生活形の植物が用いられていることがわかった。80種のうち日本の自生種は49種で、これには森林性、草原性、海浜性、湿地性のものから撹乱地に発生する雑草まで含まれた。一方、31種は食用や観賞用等として海外から持ち込まれた種であり、家紋文化には生育環境や起源を問わず多様な植物種が寄与してきたことが示された。80種のうち、いずれかのRDBに掲載されていた種は30種にのぼり、特に湿地に生育する種の掲載数が多かった。これらの種については、文化的な観点からも積極的な保全措置が必要と考えられた。